梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その4|日本のものづくりの潜在力

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

日本のものづくりの潜在力

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これほどまでに、自ら作ることにこだわる民族を、私は寡聞にして知りません。

私たちは、日本は加工貿易の国だと教えられてきました。国内に資源がないから、原材料を輸入して、それを巧みな技で加工し、付加価値の高いものにして輸出する、それが資源のない日本の生きる道だ。

子供のころからそう教えられ、日本の産業界は、その教えの通りに事業を営んできました。

そうした教えは、しばらく前まで問題なく機能してきましたが、ここにきて、すこしあやしくなってきました。

家電製品に代表されるように、新興国が安価な労働力をバネに台頭してきた結果、日本が手の内にあると思っていた市場がつぎつぎと奪われ、国内では製造業が立ちいかなくなってきたのです。

はたして、日本の産業界はグローバルな市場で生き残っていかれるのか、日本のものづくりは大丈夫なのか、危惧する議論が絶えません。

日本には高度なものづくりの技術があり、まだまだ大きな可能性を持っているという楽観論から、いや、日本の技術はガラパゴス化して行き詰っているので脱ものづくりを図らなければ将来はないという悲観論まで、さまざまな意見が言われています。

はたたしてどうなのでしょうか。

ものづくりというのは、長い蓄積の結果行われるものです。イギリスの紡績・繊維、ドイツの機械、スイスの精密工業などの例を見ればそのことはよく分かります。

その国の自然や歴史、伝統、文化、地政学、あるいは気候や国民の気質などによって、それぞれの国に独自のものづくりが行われ、その蓄積が花を咲かせて、世界市場でのシェアにつながってきます。

そうした歴史を前提にしてはじめて、その国のものづくりを語ることができるのではないかと思います。

では、私たちのものづくりとはどのようなものなのでしょうか。

・対価のためだけでなく、消費者の喜びを糧として、使う人の立場に立ったものづくりを志向する性向
・繊細な仕上がりを求めて完璧をめざす姿勢
・仕事そのものの成果に関心を持ち、さらに良くしたいと不断に改良を重ねる継続力

などのついてはよく言われますが、もう一つ

・ノーベル賞の自然科学系の受賞者数で、二〇〇〇年以降二〇一四年までに、日本はアメリカの四三名に続いて二番目に多い一二名を出し、イギリス九名、フランス・ドイツ各五名を圧倒する科学技術力と創造力(複数国籍保持者を除く)

ということも、私たちの特徴と言っていいと思います。

消費者、使い手を思いやる心があり、世界中から高く評価される繊細で高度な技があり、労をいとわぬ勤勉さがあり、なおかつ、科学技術の領域で世界トップをいく創造力を有している国、そんな国がものづくりで将来がないとは、思えません。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中