梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その26|桐生/足利に見るものづくり遺産の残し方(11)<工場の動態保存( ㈱トチセン/旧明治紡績工場跡)②>

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

桐生/足利に見るものづくり遺産の残し方(11)<工場の動態保存( ㈱トチセン/旧明治紡績工場跡)②>

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前回もご紹介した、東武線福居駅前にある㈱トチセン(栃木整染)の工場、正門を入ると正面に6連のノコギリ屋根の捺染工場があります。

ノコギリ屋根の破風にある軒蛇腹や外壁側に突き出した付柱、さらには出入り口や窓の上の横に渡した柱などが特徴で、こうした外観や意匠は国内ではあまり例のないユニークなデザインです。現在は倉庫として使われていて、ノコギリ屋根の採光窓は北向き、天井は小屋組です。

捺染工場を真っ直ぐ奥に抜けると西側端に機械室があり、旋盤などの機械が、戦後間もなくの稼働する状態で保存されています。電源を入れると、タイムスリップしたようにモーターが回り、駆動減のベルトが回り始め、スイッチを入れると旋盤が回ります。この状態で保存されていることに感動します。

すぐ裏にあるのがボイラー室。切り妻のスレート葺きで、内部は3室に分けられていて、これまで使われてきた横置き多管式ボイラーなど歴代のボイラーが3代にわたって残されています。中央の部屋にあるのが、中心を抜く炉に石炭をくべて燃やし、蒸気を作り出すランカシャボイラー。昭和16年に設置されたもので、足利地区の紡織工場・撚糸工場でも、長い間、多く使われていたという。

外壁の煉瓦のそのまま残る戦時中の迷彩、機械室のベルトかけ旋盤、また、古いボイラーが3基・・・ただ、残しておくというだけでなく、「ある状態を保存する」という工場の意図がしっかりと読み取れます。

営利を求める企業でありながら、そうした努力を長い間継続されていることに、頭が下がる思いがします。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!