梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その29|木挽き職人の技

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

木挽き職人の技唐の時代のロケが、中国ではなくて日本で行われるわけ

葛飾北斎『富嶽三十六景』の「遠江山中

銀座に木挽町という町があります。東銀座の歌舞伎座から京橋にかけてのあたりで、江戸城築城のおり、木挽き職人が多く住んでいたことからそう名付けられたといいますが、職人の凄さを物語る一つが木挽き職人の技です。

日本の住宅建築・土木資材として、木材はなくてはならない基本的な素材です。温暖で湿度の高い気候で、照葉樹林が基本の日本には木材は豊富にあり、最も身近な素材ですが、これを使うのはそう簡単ではありません。

いまでは、製材所で電動の製材機を使って、お望みの板厚にあっという間に切り分けることが可能ですが、電動製材機が使われるまでは、手作業でノコギリを引かざるを得ません。
細い物であれば素人でも削れますが、直径が1メートルを超えるような素材になると、材木として薄く切り分けるのは至難の業です。
その至難の業を専門に行うのが木挽き職人。

古い寺などの大きな建物になると、幅2尺×長さ30尺×厚さ1寸などという巨大な1枚板が使われていたりしますが、1本の丸太から、大鋸(オガ)一本で切り出していく作業は、まさに高度な技術が求められる職人技です。

30尺などという長さの板を、板厚も狂わさず、曲げずに均一に切り出すには、それなりの技能と、なによりも根気が求められます。気持ちが動けば鋸先も曲がります。倦まずたゆまずに、日がな一日、同じ気持ちで、のこを引き続け、1枚の板を正確に切り出す胆力は鍛えられたプロのものです。歯の厚い大鋸は、刃先が曲がらないための工夫から生まれた形です。

チェーンソーや製材機が導入されて、木挽き職人の出番はないと思われがちですが、もう、数えるほどですが、まだ現役で活躍されている木挽きがいらっしゃいます。

高価な銘木など、天井板に使う厚さ2分3厘(約7ミリ)の板を切り出す場合、鋸ならアサリ幅は1分5寸(4.5ミリ)で切れますが、チェーンソーだとどんなに少なく見ても7-8ミリは必要で、何枚か切り出すと、鋸で挽けば1枚多く切りだせるため、需用があるそうです。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
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