梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その31|素材を生かす

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

素材を生かす

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法隆寺、薬師寺が作られたのが600-700年代、それから1300年が経っています。法隆寺はこれまでに何度か大改修が行われ、薬師寺は今でも継続中ですが、一大改築・再建事業が進行中です。
最近は、改築、再建で、耐震建築が課題になっています。寺社も同様で、そのために、鉄筋コンクリート造りなどが求められていますが、「1000年もたせる寺社を建てるならヒノキしかない」と西岡棟梁は言います。

耐震と言っても、コンクリートや鉄はせいぜい100年で、1000年を持たせる建築素材となると、いまでも、ヒノキしかないそうです。

石も、時代がたてば風化していきますが、ヒノキは使い方さえしっかりすれば、1000年経っても、生き続けて香りもなくならないといいます。

鋸で切らずに、木のクセに合わせて中で割り、ヤリ鉋で表面を仕上げ、山で生えていた方角そのままに木材を利用することで、法隆寺などの建物は1000年持っているとか。

基本は、自然のまま、木に合わせて使うということ、つまり適材適所ということ。

丸太をノコギリで切ってしまうと、木目を無視して製材することになり、乾燥させた後にクセが出てくるので、建物が曲がり、組み付け面に無理がかかる。

電気ノコで仕上げると、一見きれいに見えるけれど、表面は木の細胞が千切られたようになり、風雨にさらされると水が蒸発せずに残り、気がそこから腐っていく。
南を向いていた木は、太陽にあたって鍛えられているので、南向きに使っても問題ないが、北側を向いていた木を南側に使うと、太陽に照らされて乾燥が進み、すぐに傷んでしまうという。

木のクセに合わせて木材を使うと、建物は必ずしも均一にはならず、パーツは太さも長さもマチマチで、現場ではそれ調整しながら組み付けていく。高度な技が必要です。

これは一人一人の技術者が高い技能を持っていないのできない工法だそうで、薬師寺を再建した西岡棟梁は、残念ながら規格化したサイズのパーツを作って組み上げるしかなかったと残念がっています。

法隆寺の東院伽藍の蟇股は、一つ一つバラバラだが、不揃いが故の落ち着きのようなものがあります。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!