梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その1|まえがき 〜日本のものづくりは「人類の財産」〜

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

日本のものづくりは「人類の財産」

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わたしたちは明治維新以来、西洋の科学技術に学び、それを取り入れて新しいものづくりを構築してきました。

そうして生み出した私たちのものづくりは、加工の微細度が、ナノ(100万分の1ミリ)レベル、不良率は100万個に何個か(PPM)という、究極の精度を実現しています。

こと品質・精度に関して言えば、世界の市場ではほぼ他国の追随を許さない「勝負あった」状態にあります。

こうした高い精度のものづくりを実現してきた背景には、自然に対する思いや美意識、労働観、作ることへの強い関心など、独自の文化や価値観が私たちのベースに「通奏低音」のごとく流れていて、それが、小さな工夫と改善を続け、コンパクトで高品質、壊れないものを生み出す基盤になっています。

その意味で、日本のものづくりは、日本の伝統文化に西洋の科学技術や合理性が融合されて生まれた、世界でもオンリーワンの文化といえるでしょう。

いま、情報技術の急速な発達を受けて、技術の高度化が加速度的に進み、最先端の製品を生み出すために、これまでなかった一ランクも二ランクも上の高い精度や安定性が求められています。

そして、世界中の最先端の現場で、私たちが構築してきた高度なものづくりの技が使われています。

小型化する携帯端末、IT製品、高い精度と緻密な加工技術が求められる航空機、半導体など、日本の緻密な技術から生み出されたノウハウや高精度な機械・電子部品がなければ、新しい製品は成り立たなくなっています。

日本が構築してきた高度なものづくりの力がなければ、高度な製品も生み出せなくなっているのです。

人は、自然界にある「もの」と、人が手を加えることで生み出した「もの」を利用することで、空間的、時間的、さらには精神的な広がりを持った活動を可能にしてきました。

言い換えれば、「ものをつくる」という行為は、人間の尊厳と文明を支える基本的な要素なのです。人がホモ・ファーベル=ものつくる人といわれるゆえんです。

これまで産業技術の開発を進めてきた先進国の多くの人たちが興味を持たなくなってしまったものをつくるという原初的な行為に、日本人はいまでも強い関心を持っています。

そうしたものづくりを継続する精神と技術は、未来に向けた貴重な「人類の財産」でもあります。

この先、まだまだ、作り出すものについて改革・改善・改良の努力が不可欠です。そのノウハウをさらに展開し、必要としている世界に広め、次の世代につないでゆくことは、私たちにしかできない役目といってもいいでしょう。
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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中