梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その38|<薬師寺・法隆寺>(3) 釘が錆びないヒノキの包容力

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

<薬師寺・法隆寺>(3) 釘が錆びないヒノキの包容力

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建材として正しく使えばヒノキは1000年、鉄は100年、コンクリートは80年と言われています。

特にヒノキは、樹齢1000年のヒノキは正しく使えば1000年は持つといわれ、実際に700年代に建てられた法隆寺、薬師寺、唐招提寺などは老朽化しているとはいえ、根幹の部分は1300年を経てもなお、ゆるぎなく中核を支えています。修理は、傷んだ箇所の部分修理で済んでいます。

建材としては老朽化するだけの鉄や石材と違って、木材のヒノキは、生き続けるところに特徴があります。たとえば薬師寺の解体修理で、上に載っていた屋根の瓦を外したら、下にあったヒノキの板が少しずつ反発した反り返ってきたといいます。

1300年を経た木材が、重しを外されたら、少しずつ復元したというのです。修理にあたって、使われていたヒノキを4、5ミリ削ったら、香りがしてきたという話はよく知られています。1000年を超えて生き続ける--それが天然素材ヒノキなのです。

法隆寺にも薬師寺にも、創建当時から釘が使われています。鉄は寿命100年と言われながら、薬師寺や法隆寺に使われている釘は、1300年を経てもなお、錆びずにいますが、その秘訣は、ヒノキにあるとか。

使われているヒノキは樹齢1000年にも及ぶ大木で、木目がしっかりと詰まり、脂分を豊富に含んでいます。その木目の詰まったヒノキの脂分が釘に密着し、釘を酸化から守っているそうなのです。このヒノキの大きな包容力・・・すごいですね。

薬師寺に、当時の釘が展示されていますが、遺跡から発掘された釘は錆が出てぼろぼろですが、一方、ヒノキの建物に使われた釘はしっかり形を保って、錆が出ていないのです。

ヒノキは建物を長く持たせているだけでなく、釘さえも酸化から守って長生きさせているのです。ヒノキと釘という寿命の異なる素材を混在させながら、寿命を長い素材に合わせて保たせているのです。こんな知恵と工夫、1300年前の工人たちは、どうやって獲得したのでしょうか?

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!