梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その39|<薬師寺・法隆寺>(4) 摺り合わせの妙が支える1千年。

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

<薬師寺・法隆寺>(4) 摺り合わせの妙が支える1千年。

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明治の国宝修理のときに、入ってきた西洋の近代科学技術を採用して、工事を行いました。そして、屋根瓦も形を規格化し、形状をそろえて統一しました。ところが、その屋根が、急速に傷み始めて、大正から昭和に入ると、予定外に修理が必要になってしまったそうです。

屋根の上に土と瓦をおいて、隙間なくふたをしてしまうと、湿気がある日本では、中を蒸すことになってしまい、それはよくない、という理屈がわかってきた。むかしはそのことを理屈ではなしに経験で知っていたといいます。

そこへ明治に新しい科学技術が入ってきて、規格品というものが造られるようになった。それが、揃っていて、きれいで効率的と評価され、明治の改修ではそれが最新の技術として取り入れられた。ところが、それでやると、古い建物は具合が悪い。西洋ならあるいはそういうもんでええかもしれませんが、気候条件のちがう日本では、湿気が悪さをしてだめやということになる。・・・と西岡棟梁。

もともとの工法は、土台の木材の形状が一つ一つばらばらなのに合わせて、上に乗る瓦の形状をえらんで、セットしなければならない。ところが、規格化された瓦を載せ、その間を土で埋めてしまうことで、土台と瓦の間に隙間がなくなり、雨が降ったあとに空気が通らずに、中が蒸れて腐ってしまう。

屋根板と粘土、瓦の間に適度な隙間ができるように、職人がひとつひとつ手で合わせていくことで、風が通り、中の湿気が抜けて乾燥していく。木造建築物が千年を超えて持ち続けてきたのには、湿気対策として、屋根瓦の間に空気孔を作るという細かい細工があったのだそうです。

もともとの法隆寺や薬師寺の屋根瓦を載せる仕口や瓦そのものは、一つとして同じ寸法のものはないそうです。組み合わせる木材がそれぞれ木の癖を生かしているので、全部形が違う。それを現場合わせで組み合わせていくので、出来上がった建造物はすべて一品づくり。それが古刹を1000年もたせる基本、摺り合わせの妙です。

同じような構造でも一つ一つ違うことで、独特の柔らかい雰囲気を生んでいると言われています。写真は、再建した薬師寺の蟇股(梁を支える板)と古いままの法隆寺の蟇股。法隆寺の虹梁は一つひとつが違うのがわかります。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!