梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その48|ひび割れない壁の秘密

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

ひび割れない壁の秘密

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法隆寺や薬師寺の土壁は、風にさらされて徐々に風化し、表面がはぎとられたりしてはいますが、乾燥から来るヒビ割れなどはありません。あるとすれば地震の影響ですね。しかしそれも少ない。

その秘密は、土壁自身にあります。寺社など巨大建物の本筋はもちろん建物ですが、その本筋を目いっぱい生かすために、実はその本筋以外の周辺にどれだけ神経が注がれているか、それが法隆寺1000年の秘密でもあるのです。

使われている土壁は一見何の変哲もない壁のように見えますが、造るのに、3年もかけているのです。

地元にある粘土を探して掘り出し、藁を切り込んで3年ほど寝かし、その間に何度も繰り返して撹拌し、土と藁をなじませておくと、その間に藁からバクテリアが湧いてきて活性化し、そのバクテリアの蛋自が、糊を入れたと同じ働きをして粘土に粘り気を出す。バクテリアのたんぱく質が接着材として利用されているのです。

その土を塗って藁を張り付け、塗って藁を張り付け・・・中塗りまでは何度も繰り返します。何層にもすることで、ねじれやひび割れを抑えるようにしているのだそうです。

ひび割れないためのノウハウとしては、使われている土壁の芯になる骨組材が、木の癖を生かした割り木を使い、ねじれた木はねじれたまま使うことで、変形を防いでいるために、完成後に、湿気や感想などの影響を受けてもねじれないそうです。

土壁にひび割れがないことは、世界中の学者の驚きの種なのですが、手間ヒマをかけた工事があって初めて1000年という長さが可能なのですね。

料理では、素材を加工する前に、まず出汁をとります。それも地方によって、カツオ、コンブ、イリコ、アグ(トビウオ)・・・とマチマチ。この多様性と、素材を邪魔しない工夫。この思想が、日本のものづくりの根底にある。

スピードと利益が求められる現代でも、ライフサイクルのコストとしては圧倒的なコストパフォーマンスと言えるのではないかと思います。人の寿命が40年という時代に、どうしたらこんなことを発見できるのでしょうか。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
地球の歩き方「Look Back Japan –ものづくり強国日本の原点を見に行く」連載中!