梶文彦の「ニッポンものづくり紀行」 その66|人間のために命をいただく――小学校で「養蚕授業」

これからの日本のものづくりを見据えるために、過去の出来事やその成り立ちに関する情報を提供するコラム。発想を変えたい時やちょっとした仕事の合間にご覧ください。

人間のために命をいただく――小学校で「養蚕授業」

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今では少なくなってしまった養蚕を地域の人に知ってもらうおうと、長田さん夫妻は、小学校で生徒たちに養蚕の授業を行っている。

「3年生20数名の2クラスが対象で、孵化したカイコを先生が3齢まで育成し、それを生徒に10頭ずつ配って、桑やりからやってもらいます。毎日の作業なので大変ですが、それをやって、8個の繭を作った人の中から、きれいな繭ができた人、飼育記録をしっかりつけた人を、全員の投票で表彰します」と長田さん。

言うのは簡単だが、カイコを細かく観察し、適切な世話をしないと繭を作らせるのは難しい。手を抜けばカイコはすぐに死んでしまい、繭の出来も悪くなる。しかし、長田さんは8個の繭を完成することを表彰の条件にしている。

「そこまで厳しくしなくても、という声もありますが、やってもらう以上、命を扱うのですから、しっかりやってもらうべきだと思います。サナギは繭を作った後、20日ほどで蛾になり、繭を破って出てきます。

そうなると繭が汚れてしまうので、その前に乾燥させたり、冷凍したりしてサナギを死なせます。最後は、人間のために、命をいただくことで養蚕が成り立っています。カイコは家畜で、命と交換に繭がいただける。ありがたい生き物です。そのことを子供たちに体験してもらいます。命の大切さを知ってほしいのです」と長田さん。

繭は純白できれいだが、こうした繭をつくるためにはしっかりした管理が必要だ。世話をされることが当たり前になっている子供たちにとって、世話をするカイコの飼育体験は、実践的な教育の一環としても、面白い試みだ。

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梶文彦氏執筆による、コラム「ニッポンものづくり紀行」です。梶氏は、長い期間にわたりものづくり企業の国内外でのコンサルティングに携わり、日本製造業を応援しています!
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